ベルンハルト・シュリンク『朗読者』

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)
強制収容所」という最悪の過去に関しての記憶。善とはなんなのか?悪とは?そもそもそんなものは「ある」のか?よくわからない。しかし悲しみは、憎しみは、確かに「ある」。ハンナの記憶。元収容者の記憶。記憶の中の死者たち。死者たちは既に灰となり、語ることも呼びかけることもない。しかし我々はその呼びかけを感じ取る。呼びかけなき呼びかけ。決して応えることの叶わぬ呼びかけが小説の中に響いている。応えることができないのならば、それは忘却されるしかないのだろうか?死者たちを、収容所を忘れることによってのみ、われわれはその事件が、そしてその記憶がもたらした傷から回復することができるのか?わからない。『イェルサレムアイヒマン』をいい加減読まなければ。