Infinite Inc a b c ....

昨日の思想地図シンポジウムの東浩紀の発言で興味深いものがあって、デリダの責任=応答可能性から今日のコミュニケーションの諸問題に関して考えるうえでの非常に重要なヒントになった。
デリダ言語哲学者サールとの論争で、サールに対して「有限責任会社abc……」という論文で応答している。このテクストはかなりふざけていて、とてもじゃないが真面目に応答しているようには見えない。しかしこのテクストは、責任=応答可能性に関しての論文「署名 出来事 コンテクスト」のメタテクストになっていて、それと合わせて読んだときにデリダの変化球的なパフォーマンスそれ自体がとてもcriticalな応答になっている。
東によれば、デリダはここで「コミュニケーションは絶えず物理的な限界によって切断されていく」ことを示している。「有限責任会社」=「Limited Inc」は掛け言葉になっていて、つまり、「インクは限られている」というわけだ。
コミュニケーションは権利上は無限に続くが、物理的な制約―紙とインク―によって切断される。そしてだからこそコミュニケーションは円滑に続いていく。
だが、ネットには物理的な制約がない。紙もインクも無限であるがために、応答責任が切断されずにいつまでも求められてしまい、コミュニケーションが過剰になってしまう。これはブログ論壇における論争を考えてみると納得しやすい。埒が明かないので終わろうとする(切断しようとする)と、「逃げるのか」とか言われてしまう。物理的な限界がないために、切断が精神的な理由でしかできない。応答責任が現実に無限に問われてしまう。そのようなコミュニケーションは結局、不毛かつ後味の悪いものになりがちである。


他にも「物理的な制限」という点を巡って現実空間とネット(=サイバースペース、電脳「空間」)の違いがどのようなことを可能にしまた不可能にしているのかについて、濱野や磯崎の発言で幾つか面白いものがあった。シンポジウムとしての全体のまとまりは欠いていたように感じたけど、重要な問題が多く提出されたと思う。活字になってから読み返して考えたい。


有限責任会社 (叢書・ウニベルシタス)

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