父と卵、誤配


村上春樹エルサレム賞受賞スピーチの全文とその訳が出ています
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html
村上春樹: 常に卵の側に
いやあ、これは結構いいスピーチじゃないですか。まずユーモラスだし、メタファーも流石に巧みで直感に訴えかけてくるし。戦争に対する静かな怒りや悲しみ、そして彼の小説家としての責任感が込められていて、イスラエルのひとびとの心にも響いたんじゃないでしょうか。
内田樹がブログで指摘していますが(→壁と卵(つづき) - 内田樹の研究室)、村上春樹が自身の「父」について言及するのは、恐らくこれまではほとんどなかったと思います。村上のそれなりに熱心な読者だった者として、この点には個人的に感慨のようなものを感じました。彼はこれまでずっと「父」の不在の世界を描き続けてきました。そして、お父上が亡くなった今になってやっと、「父」について語り始めた。彼とお父上との関係、というのは、それなりにいろいろ、あったのではないでしょうか、と思うのですが。うーむ。
彼はこれまであまり自分について書いてこなかったけれど、これからは自伝的な語りというものも出てくるかもしれません。もう60歳だしね。ムラカミハルキが60歳、というのはちょっと信じ難いような気もするけれど。

古本屋で買った太宰の『走れメロス』に、ルーズリーフに書きつけた手紙が挟まっていました。恐らく前の持ち主が不注意で挟んだまま古本屋に持って行き、古本屋が不注意で挟んだまま陳列し、僕が不注意で挟んだまま購入したのでしょう。こういうことはたまに読んだり聞いたりしますが、自分の身に実際に起きるのは初めてです。
ひとの手紙やらメールやらを読んだりすることに対しては結構道徳規制が働く方なのですが、手紙の他には全く関係の糸が繋がっていない他人同士だから別にいいかと思って読んでしまいました。なんとなく不思議な感じでわくわくしたしね。
どうやら9年ほど前に書かれた手紙で、女子高生が親友の女子高生に、授業中かなんかに書いた手紙のようです。
ライトな文字、文体で書かれているのですが、内容は、妊娠しているかも知れない、とか、過去に妊娠中絶した友人が泣きながら電話をかけてきた話、とか、相手の男がどうちゃら、とか、かなりヘビーなものでした。うーむ。
9年前に女子高生だったら今は社会人でしょうか。結局妊娠していたのだろうか。していたのだったらその後どうしたのだろうか。うーむ。
まさしく郵便的誤配が起き、他者性に触れた一件でした。うむむ。