佐々木倫子「おたんこナース」

おたんこナース (1) (Spirits healthcare comics)
動物のお医者さん」で有名な佐々木倫子が95年から98年までビッグコミックスピリッツで連載していた、病院を舞台にしたコメディ。単行本全6巻。説明会の帰りに後楽園近くの古本屋でセットで売られていたので購入。帰り道とても重かった。
佐々木倫子の作品は多くがミステリー的要素をもっているという特徴がある*1のだけれど、この「おたんこナース」には原案がついているためか、謎の提示→ネタばらしの起承転結構造はあまり使われていない。代わりに、「ちょっといい話」な回が多い。そういう「ちょっといい話」を、スッとごく自然に読めるように仕上げてしまうのが佐々木倫子のうまいところだ。
また、「動物のお医者さん」までは多用されていた、作中の登場人物に対してメタな位置(=作者視点?)から呟き的に為されるツッコミも、本作では影を潜め、以降の佐々木作品でも見られない。僕はあの呟きにクスッと笑ってしまうことが多く、大好きだったのだが、どうして使わなくなったのだろうか。20年くらい前の少女マンガとか読むと、そういう作者のつぶやきみたいなのが結構あるから、それが流行だったのだろうか。花とゆめ→スピリッツという掲載雑誌の変化に合わせて、文法を変化させたということかも知れない。
それにしても、佐々木倫子はキャラクターの書き分けが非常にうまいな、ということを改めて感じた。絵だけの話でなく、個々のキャラクターの性格の設定、提示がすごくうまい。主人公たちはもちろん、一話一話のゲストキャラすべてが強烈な個性を放っている。佐々木作品に於いては、脇役はもはや引き立て役ではない。「おたんこナース」の最後を締めくくる言葉に、佐々木のキャラクターに対する、そして人間に対する考え方が表れていると思う。

いろいろなキャリア いろいろな性格の看護婦がいていいし それぞれに存在価値があるのだと思います。
成長すると同時に 失うものもあります。
十年後の私は 今の私を 羨ましく思うかもしれません。
でも 今の私も 何年後かの私も きっと なにかの役に立てるはずです。

あるがままを肯定すること。
佐々木倫子の作品は、爽やかな美意識に貫かれている。

*1:ちなみに「月館の殺人」は個人的には失敗だったと思う…