小説 OF THIS YEAR

ダ・ヴィンチ1月号は毎年恒例のBOOK OF THE YEARで、今年の総合1位は『1Q84』だそうです。ふーむ。短いですが村上春樹のインタヴューも載っていて、それによると、来夏刊行予定のBOOK 3では、「BOOK 1、BOOK 2ではできなかったことをしたい。内容的にも、形式的にも。」とのこと。ふむむ*1
1Q84 BOOK 1
今年はほとんどタイムリーな小説を読まなかった僕が言えたことではないのかもしれないですが、明らかに『1Q84』よりは良い小説があったでしょう。小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』でも平野啓一郎『ドーン』でも。と言っても僕はどっちも読んでいないのですが、しかし『1Q84』はやはり文体が色をなくしていてつまんないし、未完成なせいか徒労感がすごい。誰が書いていたのか忘れましたが、構造がまるで美少女ゲームみたい、というのを読んだときには膝を打ちました。
僕は今年の純文学の長編でまともに読んだのは『1Q84』と、もうひとつ川上未映子『ヘヴン』だけですが、そのどちらにも言えるのは、それまでの特徴的な文体を捨て、平坦な文体にしてきていることです。ハルキの文体は言うに及ばず、川上も『イン・歯ー』や散文詩作品に顕著だったケモノ的な運動神経と、怪物的言語感覚を『ヘヴン』では完全に放棄している。このあたりのことは思想地図vol.4の文学座談会でも話題になっていますが、どういう風に解釈したらいいのかよくわからない。どのような意図があったにせよ、どちらも作品となったときにあまり成功していないように僕は思います。
ヘヴン
ところで思想地図の宇野常寛による『ヘヴン』の批評はいいですね。宇野はこんな正統派な批評ができたのか、と感心しました。宇野氏は『ゼロ年代の想像力』を上梓した頃からここ一年くらいの間で確実に成長しています。市川真人さんが前に「宇野さんはねぇ、なんか大物臭がするんですよ(笑)」と言ってましたが、ホントに大物になれるかも。

*1:というかBOOK 3刊行はもう確定事項なのですね。BOOK 1、2が出てとにかく褒めとけという絶賛の評が出まくっていた段階でいちはやく「これでは全く未完成だから続きが出るはず」と書いた前田塁はエラかった。